「忌中札」というものをご存知でしょうか。家族を喪った家庭が、その住まいの玄関先に貼る、「忌中」と記した紙製の札のことです。また、通夜や告別式の日時などを付け加えたものを、町内の掲示板や電柱などに貼り出す習慣もありました。どちらも、最近では見かけることが少なくなってきましたが、防犯上の問題や、何よりコミュニティの結びつきが希薄になってきたことが原因のようです。
この「忌」という漢字には、「嫌って避ける」の他に、「人が死んだ後、一定の期間、慎むこと」という意味もあります。つまり「忌中」とは、亡くなった家族のために、家にこもって祈り、穢れを祓う期間のことです。
これは、死を穢れとする神道の考え方に基づくものと言われており、神道では、家族が亡くなると、その家は「穢れ」の状態となり、それが「気枯れ」、即ち生命力の衰え、心が沈むという状態に通じるとされています。
一方、「忌中」と似た言葉で、より馴染み深いのが、「喪中」でしょう。これは、別名で「服」とも言われ、「忌中」が明けた後、故人を偲び慎みながらも、平常の生活へ移る期間です。
「忌中」が、故人をお祀りして供養する期間であると同時に、周囲や社会への配慮という意味合いをもつのに対し、「喪中」は、遺族が悲しみを癒し、故人を偲ぶための期間。つまり、悲しみや供養の気持ちを自発的に表現していく期間と言えるのではないでしょうか。